先日、近所の書店をひょいと覗いた際のこと。一角に平積みされた本を見て、私の中に衝撃が走りました。
なんと!獅子文六の『自由学校』ではありませんか!
と、言っても「は?獅子文六ってダレ?」という方も多いことでしょう。獅子文六は文化勲章も受章した
昭和初期の小説家なのですが、その作品の多くは長年絶版になっていたので、私の年代ではあまり知る
機会のない作家と言えます。しかし、私の母が若かりし頃はまだポピュラーだったようで、私の家には
母がずっと持っていた『自由学校』がありました。まだ十代だった私は、「暇つぶしにでも…」と
たいして期待せず、その本を手に取ってみました。ところが、読み進むにつれ「何だこれ!面白い!」と
ビックリ仰天。それまでどんなに面白い本を読んでも実際に声を出して笑うことなどなかったのですが、
この時初めて「本を読んで笑い声を上げる」という経験をしたのです!
私が当時読んでいた、日本のいわゆる“文豪”たちによって書かれた文芸小説は、どうも「暗い」「重い」
「湿っぽい」という印象でした。しかし、『自由学校』は全くそれとは異なり、とにかくカラッと明るく
軽妙洒脱。文章のテンポが良く、ジメジメしたところが一切ない。そもそも獅子文六の作品は大衆文学
なので、純文学とは違うのでしょうが、こんなに古い小説でこんなに笑えるなんて!というのが
驚きでした。
それ以来、絶版を免れた数少ない獅子文六作品を細々と買い集めていたのですが、嬉しいことに
近年になって復刊の波が到来。『コーヒーと恋愛』『てんやわんや』『娘と私』『七時間半』『悦ちゃん』
などが発売され、当然私は全て購入。「『自由学校』は復刊しないのかな…」と密かな期待を
抱き続けていたのが、この度ようやく出会えたという次第なのです。
今、私の手元には二冊の『自由学校』があります。黄ばんでボロボロに古びた新潮文庫版と、
この度復刊したピカピカに新しいちくま文庫版。同じ本を二冊持つことは中々無いのですが、
この本に限っては新旧一緒に大事に大事に本棚に置いておこうと思っています。
(K.O)