コラム
一生遊んで暮らすには2013.8.12(投稿日)

働きたくなんかない。できれば一生遊んで暮らしたい。

 

勤め人なら、一度はこんな妄想で現実逃避したことはないでしょうか。ただし、そんなのは巨額の宝くじが当たるような幸運に恵まれない限り無理。でも、もし宝くじが当たったら何に使おうとまたもや非生産的な妄想に浸るのが関の山です。

 

ところが、世の中には巨万の富が無くても「一生遊んで暮らす」を実現している人がいるのです。それはズバリ「遊ぶように楽しく」仕事をしている人。

 

「私のしていることは仕事ではなく喜び」と語るのは、ニューヨーク・タイムズ紙でファッション・コラムと社交コラムを長年担当している御年84歳で現役(!)の写真家、ビル・カニンガム。ストリートファッションスナップの草分けである彼を追ったドキュメンタリー映画「ビル・カニンガム&ニューヨーク」では、華々しいファッション界のイメージとはかけ離れた、非常に質素で堅実な彼の生活が明らかになります。

 

移動手段はいつも自転車。パリの清掃員の作業着だという青い上着をユニフォーム代わりに、雨の日はガムテープで補修したポンチョをかぶってどこにでも出かけていきます。独身で恋人もつくらず、老朽化が進んだアパートの部屋はネガフィルムを収めたキャビネットだらけ。コーヒーは「安ければ安いほどいい」がモットー。

 

この生活のどこが「遊んで暮らす」なの?と思われるかもしれません。しかし、街中でこれは!と思うファッションの人を発見すると、宝物を見つけたように嬉しそうにシャッターを切るビルの姿は、仕事をしているというよりも夢中で遊んでいる子供のように見えます。ビルも自分のことを「写真家じゃない。名乗ったら詐欺と言われるよ」なんて謙遜していますが、アメリカ版ヴォーグのカリスマ編集長アナ・ウィンターが「私たちは毎日ビルのために服を着るのよ」とコメントしているくらいですから、彼のファッションに対する目がいかに優れているかは推して知るべしでしょう。

 

何よりも自由を愛するビルですが、自由を守るために自分に課した厳しいルールがあります。「客観性を保つためパーティ会場では水一杯でも口を付けない」「仕事に口出しされるくらいなら報酬は受け取らない」「(どんな有名人であっても)撮るかどうかはファッション次第」などなど。このストイックさを思うと、彼の仕事を「遊び」と言ってしまうのは語弊があるかもしれません。しかし、常に笑顔で上機嫌に仕事をする彼の生き方は、巨額の宝くじが当たるよりもうらやましいかもしれないと思えるのです。

 

                                                        (KO)

 

 


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「ビル・カニンガム&ニューヨーク」のパンフレット。監督はなんと8年がかりの説得でビルに映画出演をOKしてもらったとか。それなのにビル本人は完成した映画を見ていないそうです(笑)。

 

 

 


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アナ・ウィンターの鬼編集長っぷりと「ヴォーグ」編集部面々の悪戦苦闘を描いたドキュメンタリー映画「ファッションが教えてくれること」のパンフレット。アナに何度もダメ出しをくらうヴォーグのスタッフに自分の姿を重ねて見てしまいます

 

 

 


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こちらもドキュメンタリー映画「ダイアナ・ヴリーランド」のパンフレット。ダイアナはアナ・ウィンターと同じくヴォーグの編集長で、独特の美意識と感性でファッション界に多大な影響を与えたお方。アナとタイプは違えどやはり女帝って感じです。

 

 

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