都会に出てきたばかりの田舎者の私。
今まで車やバイクで移動していた私にとって、
都会での慣れない電車移動は、
どうも悪いところばかり目について仕方がなかった。
並んで待っていたのに、
電車がくると順番を抜かして割り込んでくる人。
降りる人がいるのにも関わらず、我先に!と乗り込む人。
5分くらい待てば次の電車が来るのに、
猛ダッシュで走り込んでくる人
(遅刻しそうだったのかもしれないけど)。
満員の車内で、自分が携帯を使うスペースを確保しようと
ギュウギュウ押してくる人もいた。
特にビックリしたのは、私の前の座席が空いたので座ろうとしたら、
隣に立っていた人が私を押しのけて即座に座ったこと。
地元では経験したことがなかった人々の行動に、
「都会はみんな余裕がないのだろうか…自分だけが良ければそれでいいのだろうか…」と、マナーの悪さを感じてしまった。
そんな光景を何回か目にし、
電車での移動に嫌気が差しはじめていたある日のこと。
帰宅ラッシュで車内は満員だったのだが、
ある駅を出発して間もなく、
斜め向かいに座っていた会社員風の男性が急に立ち上がった。
何事かとそちらを見ると、電車に乗ってきたお年寄りに、
気持ちいいくらいの笑顔で「どうぞ」と席を譲っていたのだ。
「都会はマナーが悪い」と思い込んでいた私にとって、
その行動は衝撃的で、感動的で、
ものすごく素晴らしいことのように思えた。
…が、ふと気がついた。
「あれ? それって“当たり前のこと“なんじゃないか?」と。
人は忙しい毎日を送るのに自分のことだけで精一杯になると、
周りの人を思いやる気持ちが欠けてしまいがちだ。
私はその悪いところを見ることに慣れ、
“当たり前のこと“を「良いことだ」と
特別なことのように思う感覚になっていたのだ。
「席を譲る」なんて、
無言で立つのが精一杯な私にとってはかなり勇気がいることだけど、
そんな“当たり前のこと“が
当たり前にできる人にならなくちゃ! と
都会の夜に誓った田舎娘なのでした。
(H.S.)