「週刊粧業新聞」6月9日号に、代表取締役 鯉渕の『激変するコスメマーケット 第108回 勘定が合っても、感情が合わない!』が掲載されました!ぜひ、ご覧ください。
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『激変するコスメマーケット』
第108回 勘定が合っても、感情が合わない!
コロナ禍以降、お客様のニーズや商品トレンドの変化が顕在化する中、企業側でも世代交代や技術の革新なども重なって、ブランドコンセプトを見直す会社が多くなっている。まずはHPをリニューアルし、新しいブランドイメージを発信している会社が目立っている。
そんな中で少し気になるリニューアルも目に付くので、疑問を呈しておきたい。
どんな会社でも世の中のトレンドやニーズを反映したリニューアルを行うのは当然のこと。商品のリニューアルも新成分や新技術を取り入れて、3~5年毎にリニューアルを実施しているのと同様である。しかしブランドコンセプトの変更となると、より慎重に進めるべきだと思う。
例えば自然派を訴求し漢方や和漢素材をメインにして、お手入れ方法も日本人にあった丁寧さにこだわっていた会社が、急に西洋医学のようなサイエンスをメインのコンセプトに掲げたら、さぞかしお客様はびっくりするに違いない。
あるお客様インタビューで、そんな仮説に基づくコンセプトの方向性に対するご意見を伺った。お客様からは「そんな方向に変えることもあり得るのですか?」と怪訝な表情で逆質問され、続けて「私は今の自然派の〇〇が好きだったので、今後変更になるなら考えないと……」と言われてしまった。
会社側がリニューアルを企画するのも、将来の市場拡大の予測や人気商品の傾向などを分析して方向性を決めているであろうということは、事業存続の意味からもとても重要だと理解できる。しかしその方向性を決める議論の中に、お客様、特に愛用歴の長いロイヤルユーザーの意見を取り入れなくてよいのだろうか?
使い続けてくださっているお客様は、好きな商品で使い心地もよく価格にもある程度満足しているから継続使用してくれているのだ。しかも化粧品は、肌に密着するものだけに、使用者の「好きだから」という感情の満足度も大きな理由を占める。そのため、好きなものが急に変わってしまったら、不安や不信感が募り「なぜ!」という疑問になってしまうことは想像できる。
そのため化粧品コンセプトのリニューアルはとても難しい。私の経験では、もともとのコンセプトやブランドイメージと遠くかけ離れる程、お客様を失うことになる確率が高い。一方、リニューアルをしても何も変わらないのでは、これも逆効果だ。その変化の塩梅が難しい。
過去のイメージも大切にしつつ、さらにレベルアップする方向で考えるとうまくいくケースが多いような気がする。
化粧品は「モノ」ではあるが、「物」ではない。コンセプトには様々な歴史や文化の伝承も含まれているので、簡単に切り替えることはできない。
例えば、ターゲット層も全く新しく、別のブランドのように切り替えるのであれば「別ブランドに衣替え」になるが、既存のお客様に継続して使っていただくのであれば、最も大事にしなくてはならないのは既存のロイヤル顧客様のご意見だと思う。しかもご意見を聞くだけでなく、こちらからも丁寧な説明をして、美容知識を更新してもらい、サンプルで実感させるなどの手続きを経て理解してもらう必要がある。
なぜリニューアルするのか、その理由を丁寧に説明する責任も企業側にはあると思う。特に難しいのは、価格面の変更の説明だ。会社の収益を考えるとどうしても値上げに踏み切らなくてはならない場合もある。そんな時のリニューアルのリリースは、とても気を使うべきだ。化粧品は「勘定と感情」のバランスがとても大切な商品だと思う。